2020年1月24日~26日に東京国際フォーラムで開催された第43回日本眼科手術学会学術総会に参加してきました。眼科手術に関する幅広い分野のお話を聞くことができる学会です。網膜硝子体の分野では、難治性糖尿病黄斑浮腫の治療について神戸大学の今井尚徳先生の講演の中で興味深いお話がありました。難治性糖尿病黄斑浮腫の嚢胞内にフィブリノーゲン塊を形成する症例が存在し、嚢胞様腔内壁切開術を併用してフィブリノーゲン塊を摘出することが黄斑浮腫軽減と視力改善に有効である可能性を報告していました。
黄斑浮腫の治療として現在は、抗VEGF抗体硝子体内注射、ステロイドテノン嚢下注射、血管瘤への直接凝固、硝子体手術などがありますが、どの治療を行っても浮腫が遷延する症例が存在しており、この治療が有効であれば治療の次の一手として患者さんの福音になると思いますので当院でも検討していきたいと思いました。
ここ最近眼科手術で話題になっている笑気麻酔の講演を聞くことができました。眼科手術は局所麻酔で手術することがほとんどで、緊張が強い方はミタゾラムなどの鎮静剤を静注して対応していますが、点滴ラインの確保が必要で呼吸抑制のリスクと覚醒するまでに時間を要する難点がありました。それに対して笑気麻酔は酸素と一緒に吸う吸入麻酔になるため簡便で呼吸抑制もなく、吸入を止めてすぐに覚醒することができます。不穏で動く方や顕微鏡の光がまぶしくて上転する方、無意識にキョロキョロする方も笑気麻酔でだいぶ軽減するようです。鎮痛のための局所麻酔は必要ですが、患者さんの緊張を和らげて手術もやりやすくなるため患者さんと医師双方に優しい非常に有用なツールになると思いました。当院でも導入できるか検討していきたいと思います。
ハートライフ病院の親川先生が講演したDMEKのお話も聞くことができました。日本の角膜のパーツ移植はDSAEKが多いようですが、ドイツではほとんどDMEKが行われているようです。DMEKは拒絶反応が少なく、早期から視力回復が得られ非常に良い方法のようですが、日本人は浅前房で硝子体圧が高く、虹彩色素の影響で視認性が悪いなど技術的に移植を難しくしている解剖学的要因があるようです。しかし、それを克服しようと日本の医師が果敢に挑戦している姿が講演から感じることができて大変感銘を受けました。今後日本にDMEKが広まる日が近いと感じました。
私は今回、大阪労災病院の恵美和幸先生が座長を務める硝子体道場で講演をさせて頂く貴重な機会を頂きました。恵美和幸先生は硝子体サージャンのレジェンドで私自身学会に参加するときには硝子体道場は必ず聴講していました。全国の凄腕硝子体サージャンの手術をみることができるとても楽しい会です。「道を極める」というテーマを頂き、どのように講演しようか迷いましたが、今まで自分が経験した症例を通して硝子体手術の基本手技を中心に重症例に対する対処法、スキルをあげるために心がけていることをお話させて頂きました。新潟大学の長谷部日先生、大阪労災病院の池田俊英先生、順天堂大の太田俊彦先生、座長の恵美和幸先生の症例も大変刺激になり今後の手術の参考になるものばかりでした。多くの事を学ぶことができた学会でした。今後の診療に役立てていきたいと思います。
(山内遵秀)